Stocks & Destiny
Chapter 10
借り
195 Words
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Translated by AI · Edited by a human · 19 Sept 2026
廊下に足を踏み入れた瞬間、ひそひそ声が始まった。
「アヌ教授、今朝一番にあいつを連れ出したらしいぞ」
「古いセミナールームに行ったって」
「あいつ、何かやらかしたのか?」
みんな、間違っていた。
ただ、思っているのとは違う意味で。
僕は俯いたまま歩き続けた。廊下には業務用フェニル洗剤のきつい匂いと、理系棟の淀んだ空気にいつも漂っているチョークの粉っぽい匂いがこもっていた。頭上では寿命寸前の蛍光灯が、一定の間隔で苛立たしいカチ、カチという音を立てている。今日はキャンバス地のリュックがやけに重く、ストラップが肩に鋭く食い込んでいた。
数秒後、サミールが隣に並んだ。すぐには何も言わなかった。
人の多い場所を抜け、角を曲がってからようやく口を開いた。
「また学長室に呼び出される前みたいな歩き方してるぞ」声を潜めて言う。「また消えるつもりなら、今度はもう少しマシな言い訳をくれ。前は食中毒ってことにしたら、クラスの半分がお前は死にかけてるって思ってたからな」
「大丈夫だよ」
「病院送りになった日も、そう言ってたよな」
サミールは立ち止まり、流れていく学生の列から僕を引き離すように腕をつかんだ。声から、いつもの軽口が完全に消える。
「あれからずっとおかしいぞ。話してる途中で急に上の空になるし、机の下で中毒みたいにスマホばっか見てる。何かあるなら、リシ、言えよ。笑ったりしないから」
僕はサミールを見た。
この大学で唯一、本当に友達と呼べるやつ。
僕の代わりにうまく誤魔化してくれて、病院のベッド脇にも気まずそうに立っていてくれたやつ。
言葉が一瞬、舌の上まで出かかった。
話したかった。
嘘をついている罪悪感が、冷たく重い石みたいに腹の底に沈んでいた。
でも、親友にどう説明すればいい?
数字が光って見えるんだ、と?
もし医者たちと同じ目で見られたら?
僕がどこか根本から壊れてしまった人間みたいに。
それとも、もっと悪いことに――ギャンブラーが当たりくじを見るような目で僕を見始めたら?
僕に残っている唯一の普通の日常まで失うなんて、耐えられなかった。
僕は一度だけ首を振り、疲れた笑みを無理やり作った。
「学費のことでちょっと参ってるだけだよ、サミール。あとで話す。いい?」
サミールはしばらく僕の顔を見つめていた。そこから本当の答えを探すみたいに。
やがて、短く諦めたような息を吐いた。
「分かった。でもまた倒れても、今度は運ばないからな。まだ腰が痛いんだ」
冗談めかしていた。
でも、その奥にある心配は冗談ではなかった。
僕は頷き、また歩き始めた。
噂なんて、本当の問題じゃなかった。
サミールの質問だって、本当の問題ではない。
本当の問題は、僕がすでにアヌ教授へ真実の一部を渡してしまったことだった。
あの光のことを話した。
彼女は、僕をもう一度精神科に戻した方がいいとでも言いたげな目で見た。
それでも彼女は、僕の言葉を信じてヴァルダンに金を入れた。
20パーセント。
その数字が今、僕たちの間に横たわっていた。
廊下のどんな噂よりも重く。
――リシ、一人ですべてを築くことはできない。
夢の中で聞いたアッパの言葉が、まだ胸の奥に押しつけられているようだった。
僕はもう、彼女にレンガを一つ渡していた。
問題は、あといくつ渡すつもりなのか。
そして彼女が、それを使って何を築くのか。
何も見せなければ、僕は理解すらできていないこの力を、一人で抱え続けることになる。
見せすぎれば、僕は学生ではなく、ただの道具になるかもしれない。
その間を見つける必要があった。
こちらで範囲を決めた、小さなテスト。
いざとなれば、まだ引き返せる程度のもの。
✦ ✦ ✦
職員室で、アヌ教授はノートパソコンを開いたまま座っていた。
紅茶はとっくに冷めきっていた。
ヴァルダン・オートシステムズの横には、まだ緑色の数字が表示されている。
+20.14%。
あの奇妙で、あり得ない会話のあと、彼女はヴァルダンに5,000ルピーを投じた。
授業中に倒れ、その後、面と向かって「株の名前が光って見える」と言い出した学生――リシの言葉を信じて。
今でも、馬鹿げた話にしか聞こえない。
精神的に限界まで追い詰められた人間が見る症状だと言われた方が、まだ納得できる。
けれど、画面の数字は本物だった。
金も本物だった。
彼女はポートフォリオのタブを閉じ、何も表示されていないデスクトップを見つめた。
リシは、学科の誰もヴァルダンを話題にしていない段階で知っていた。
まさに必要な瞬間に、必要な質問をした。
そして金融の常識では説明できないのに、その株は彼の予想どおりに動いた。
銘柄名が光るなんて、彼女は信じていなかった。
今だって信じてはいない。
それでも、彼が自分に命綱を投げてくれたという事実だけは無視できなかった。
職員室のドアが蝶番を軋ませながら開き、彼女の思考を断ち切った。
陶器のマグカップを手にしたアナンド教授が入ってきた。
顔には、念入りに作られた完璧な笑み。
安っぽいクローブ系のコロンと、染みついた煙草の匂いがかすかに漂っていた。
「今日は随分と集中してるじゃないか、アヌ」
彼はゆっくり一口飲んだ。
「倒れたあの学生と、ずいぶん長く話していたそうだな。先週、君の講義そっちのけでノートパソコンを見ていた、あの子だろ?」
アヌは顔を上げなかった。
キーボードの上の手も動揺させない。
「授業のことよ。彼は2週間休んでいたから」
「よほど重要な授業の話だったらしい」
アナンドの声は穏やかなままだった。
だが彼は一歩近づき、共用テーブルの端に腰を預けた。
「学生というのはよく喋る。知ってるだろう? 教授が特定の学生だけに余計な時間を割き始めると、人は気づくものだ。そういう話を面白がる連中もいる」
「好きに言わせておけばいいわ、アナンド。私は成績を入力しないといけないの」
「そうか?」
アナンドは首を傾げた。
「さっき教員ラウンジで、少し面白い話が出ていてね。教員給与の削減で苦しいと公言していた若手教授が、歴史的な合併のほんの数時間前に、中型株の自動車部品メーカーへ突然金を投じたらしい」
アヌの指が、キーの上で止まった。
アナンドは笑った。
目だけは冷たかった。
「そして翌朝、その同じ教授が、金に困っている2年生を誰もいないセミナールームへ連れ込んで個人的に話をしている」
彼は少し間を置いた。
「君のことをよく知らなければ、まるでインサイダー情報をもらって売買したみたいだと言いたくなるところだよ。SEBIなら、もっとずっと些細なことで人のキャリアを終わらせる」
アヌはようやく彼の目を見た。
胸の奥ではアドレナリンが一気に駆け上がっていたが、声は完全に平静だった。
「ご忠告ありがとう、アナンド教授。告発したいことがあるなら学部長に言って。そうでないなら、自分の学生も、自分のお金も、自分で管理できるわ」
彼はわざとらしく両手を上げた。
一本取ったとでも言いたげな笑みを浮かべている。
「もちろん。ただの親切な忠告さ」
そして付け加えた。
「覚えておいた方がいい。この学科で一度噂が走り出したら、止めるのはとても難しい」
彼は部屋を出ていった。
背後で、重い木製のドアがカチリと閉まる。
静かな部屋に、アヌだけが残った。
椅子に深くもたれ、ズキズキするこめかみに二本の指を強く押し当てる。
アナンドは蛇みたいな男だった。
だが、一つだけ正しいことを言っていた。
――見た目だけなら、疑われてもおかしくない。
彼女は何も悪いことなどしていない。
リシがどこから情報を得たのかすら知らない。
それでも、疑わしく見える。
もう一度、リシと話さなければならなかった。
彼の「光が見える」という馬鹿げた話を信じたからではない。
リシが一体どこから情報を得ているのか、それを正確に知る必要があった。
学科中の人間が――あるいは最悪の場合、規制当局までが――二人を見始める前に。
✦ ✦ ✦
最後の授業が終わってからも、僕はずっとコンピューター室に残っていた。
ほとんどのパソコンはすでに電源が落とされていた。
遠くの隅に、最終学年の学生が二人だけ残っている。
二人ともヘッドホンをつけ、薄暗い部屋の中でモニターだけがぼんやり光っていた。
室内の空気は息苦しかった。
熱を持ったプラスチックとオゾン、それからPCタワーの冷却ファンに積もった古い埃の匂い。
頭上ではシーリングファンがゆっくり回り、カタ、カタ、と不規則な音を立てていた。
その音が頭蓋骨の内側にまで響いてくる。
僕は窓際の席に座り、ブラウザを開いた。
そして今の僕に思いつく唯一のやり方で、銘柄を調べ始めた。
スーリヤネット・パワー。
何もない。
ただの緑色の矢印と、普通の数字。
アーリヤン・テック・システムズ。
やっぱり何もない。
シュラッダ・バンク。
株価が数パイサだけ動いた。
引っかかる感覚もない。
光もない。
トリヴェニ・メタルズ。
スカイライン・インフラワークス。
僕は続けた。
スクロールする速度は、銘柄を追うたびに少しずつ遅くなっていった。
後頭部の奥に、すっと現れるあの静かな感覚を待ちながら。
タシャの時。
そしてヴァルダンの時。
あの感覚。
でも、来なかった。
20分もすると目がしみ始めた。
首の付け根では鈍い頭痛が脈打ち始める。
頭上の蛍光灯はいつも以上に眩しく、指紋だらけのモニターに嫌になるほど強く反射していた。
僕は安っぽいプラスチックの椅子にもたれ、両手で顔をこすった。
苛立った息が漏れる。
駄目だ。
総当たりでは発動しない。
適当なリンクを片っ端から開いて、奇跡が起きるのを待ち続けるわけにはいかなかった。
明日、アヌ教授と話す約束がある。
もう、あり得ない真実は口にしてしまった。
――光が見える。
今さら撤回なんてできない。
持ってもいない金融知識を、あるふりすることもできない。
僕は19歳のコンピューターサイエンス専攻の学生だ。
家に帰るバス代にも困るくらいの小遣いしか持っていない。
でも、真実を話すだけでは足りなかった。
金融を教える教授にとっては。
彼女には証拠が必要だった。
ヴァルダンが、僕が偶然拾った当たりくじではなかったと分からせる必要がある。
もう一つ、銘柄を見つけなければならない。
たった一つ。
僕が狂っているわけではないと証明するために。
彼女の貯金で遊んでいるわけでもないと証明するために。
でも、この力をどう動かせばいいのか、僕にはまったく分からなかった。
僕はモニターの太いベゼルに映る、暗い自分の顔を見つめた。
証券口座(Demat口座)もない。
元手もない。
この力を一人で使う方法もない。
知っているのはアヌ教授だけだった。
そして明日、僕は彼女に助けを求めることになる。
もう一つ予測を渡すのではなく。
これがどうやって働くのか、自分にも分からないと認めるために。
長く、ゆっくり息を吐いた。
頭痛はさらに酷くなっていた。
明日だ。
どうやって発動させるのか分からない。
そう正直に言えばいい。
僕は黄ばんだ重いプラスチック製のマウスへ手を伸ばした。
ようやくブラウザを閉じ、荷物をまとめて、母さんの待つ家へ帰ろうとした。
その時。
ポケットの中でスマホが震えた。
知らない番号からのメッセージ。
「話があります。今日。明日ではなく」
――アヌ教授